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令和8年9月卒業式ならびに学位記授与式 学長式辞

記念館前
授与式
式場

 学部卒業生8名、大学院博士前期課程修了生12名、大学院博士後期課程修了生3名、合計23名の皆さん、卒業ならびに修了、誠におめでとうございます。ご家族やご親族をはじめ、関係者の皆様にも、心よりお祝いを申し上げます。

 皆さんの中には、卒業や修了の後、進学される方もいれば、民間企業への就職や公務員となられる方もいらっしゃることでしょう。しかしいずれにいたしましても、本日皆さんが手にされた学士号、修士号、博士号の学位は、学びの終着点を表すものではなく、新たな学びのスタートラインを示すものであるということを、忘れないでいただきたいと思います。昭和の高度経済成長期に定着した終身雇用制度が過去のものとなりつつある昨今、教育界や政財界などでは、リスキリングやリカレント教育といった言葉を耳にする機会が多くなっています。そう遠くない将来の日本では、一生涯学び続けることが、個人としても社会の一員としても当たり前になることでしょう。本日この場で卒業式ならびに学位記授与式を迎えられた皆さんも、将来、学び直しや学びの継続・再開を意識される際には、ぜひまた、母校である奈良女子大学、ならびに奈良女子大学大学院を思い出していただければと願っております。

 さて、少し話題は変わりますが、過日の日曜日、奈良女子大学卒業生の同窓会である「佐保会」の総会が奈良ホテルで開催され、私も出席してまいりました。今年の総会では、本学卒業生である吉村直子さんの講演が催されました。吉村さんは、本学生活環境学部の前身である家政学部の住居学科をご卒業後、大学院博士前期課程に進学され、1992年に修士号を取得されました。大学院修了後は株式会社長谷工コーポレーションに入社され、2019年から取締役主席研究員、2023年から取締役執行役員を務められ、現在は株式会社長谷工総合研究所の代表取締役社長も兼務されています。

 吉村さんは多岐にわたるお話をされましたが、ご講演の中で私が特に印象に残ったのは、博士前期課程を修了する際、自ら長谷工総合研究所に電話をかけ、当時の人事担当部署や所長にアポイントを取ってご自身の研究を売り込みに行かれた、というエピソードです。当時、吉村さんが大学院で進められていた「高齢者や要介護者にとっての住まいや居住環境に関する研究」は、奈良女子大学以外の日本の研究機関ではほとんど手が付けられていなかったのだそうです。民間企業の中では唯一、長谷工コーポレーションの研究所でその研究が続けられる可能性があると考え、就職したいと直談判されたとのことでした。そして、入社後もご自身の研究と真摯に向き合い、情熱を注ぎ、全力で事にあたり、何事にもチャレンジ精神旺盛に前向きに挑戦してこられた。そうして気がつけば、生え抜き社員としては初の女性執行役員、ならびに女性代表取締役社長を務めることになった、とお話ししてくださいました。

 もう一例、「女性初の~」という冠がつくニュースが先日報道されました。来年4月から東京大学で初の女性総長が誕生することになった、というニュースです。この次期東大総長予定者である藤垣裕子教授は、現在、東京大学大学院総合文化研究科に所属され、理事・副学長もお務めになっていますが、実は本学を傘下に置く国立大学法人奈良国立大学機構のアドバイザリーボードメンバーでもいらっしゃいます。奈良国立大学機構では、藤垣教授に学外者の視点から、特に法人の教育・研究についてご助言をいただいてまいりました。以前、藤垣教授に本機構でのご講演をお願いした折、これまでの教育研究活動や副学長としての大学運営業務においてさまざまな障壁があり、それらをより良く改変してゆくために様々な挑戦をされてきたとお話しくださったことが強く印象に残っております。本学と関わりの深いこのような方が、東京大学初の女性総長に就任されるということにも、浅からぬご縁を感じているところです。

 前述の2つの事例につきましては、女性リーダーの育成を一つの目標に掲げる本学にとりまして、大変喜ばしいことであると捉えております。しかし視点を変えると、「女性初の~」が冠につく組織や環境というのは、まだまだ男女格差が大きい組織・環境である、という見方もできます。

 吉村氏にいたしましても藤垣教授にいたしましても、それぞれの分野で一角の業績を残され、リーダーの役割を担われている方は、強い意志とともに、何事にも前向きかつ楽観的に取り組んでこられたのだな、という印象を受けます。もっとも、ご本人はそう意識されていないかもしれませんが、傍から拝見するとそのように感じられるということです。楽観的であることが常に善とは限らないとは思いますが、昨年もこの場でお伝えしました通り、物事の見方や対処方法としての「信念」「準備」「楽観的」「前向き」「挑戦的」というキーワードは、人生を歩んでいく上で一つの大きな指針になると思う次第です。おそらく皆さんは、これからの人生で多かれ少なかれ、広い意味での「男女格差」に直面することがあるでしょう。その際、「女性初の~」や「女性の社会参画」を牽引する形で、格差解消に向けた一歩を踏み出してくださることを心より願っております。そして、自分にできるだろうかと躊躇するような、より高度で挑戦的な仕事や役職を打診された時には、ぜひ「はい」か「YES」か「喜んで」とお応えいただき、挑戦を続けていただければと思います。

 さて、本日の卒業式ならびに学位記授与式に合わせて、皆さんにお勧めしたいことがあります。諸先輩方が築かれてきた同窓会「佐保会」へのご加入を、ぜひご検討いただきたいということです。本学は他大学と比べて1学年の学生数が少ないため絶対数は限られますが、OGの皆様はすでに多方面で目覚ましい活躍をされています。先ほどご紹介した吉村直子さんも佐保会の会員でいらっしゃいます。社会に出た際、人と人とのネットワークは大変重要です。「佐保会」は各都道府県に支部が設置されており、これほど同窓会組織が充実している大学も大変めずらしいのではないかと思います。このような人と人とのつながりを大切にすることは、プライベートでも仕事の上でも、皆さんの人生にきっと素晴らしい影響をもたらしてくれるはずです。

 最後になりますが、本学を巣立つ皆さんの成長と活躍を目にし、耳にすることは、私たち教職員にとって大いなる励みとなります。奈良女子大学での学びと経験を生かして、大いに奮闘し、活躍されることを期待しております。皆さんの前途が実り多きものとなることを心より祈念いたしまして、お祝いの言葉とさせていただきます。

令和8年9月30日 奈良女子大学長 高田将志