従来の歴史学は、文献史料や発掘調査で得られた資料、伝世品などをもとにして研究が進められてきました。しかしながら、伝世品の中には、製造法や材料に不明なものもあり、文献史料にその製造法や材料が書き記されているものであっても、真偽のほどを確かめるには限界があります。

 「タンパク質考古学創成事業」では、人文及び社会科学的研究課題を、生物由来の原料を含む文化財に残留するタンパク質に着目して自然科学的手法(プロテオミクス)で解決を目指し、新研究分野を開拓することを目指しています。歴史的資料は出来る限り非破壊に扱うことが望まれており、分析試料の極微量化などの問題も存在します。本事業では、歴史的資料に特有な分析手法の開発も同時に行います。
 ライフサイエンスにおいて、プロテオミクスは、特定の細胞器官中のタンパク質(数千種類にのぼる)を網羅的に解析することによって、その細胞器官に関わる生命現象を研究する手法として特に注目されています。
特定の地域または年代の文化財や歴史的遺物に含まれる特徴的なタンパク質を、個別にプロテオミクス技術で解析し、他の地域または年代について解析した結果と比較することによって古代史・環境史などの研究を行うことは、古代の国際的文化・技術交流が解明されるだけでなく、文化財の性質が明らかとなり文化財修復技術の向上などに貢献できることが期待されています。