ご挨拶

 タンパク質と考古学がどう結びつくのだろうか?「卵や牛乳、豆腐のタンパク質など、冷蔵庫で保存しておかなければすぐに腐ってしまう」とか、「絹やウールの服だって油断すれば虫に食われる」ことは誰でも知っているでしょう。実は私たちも、現在の事業の前身である「古代史・環境史プロテオミクス創成事業」と名付けたプロジェクトを平成21年度から研究を始めた時には、タイトルの曖昧さが物語るように、はっきりと考古学の研究に踏み出すだけの自信も、歴史的に何らかの意味のある成果につながる確信もありませんでした。タンパク質の科学で考古学に貢献するどころか、古代の遺跡から発掘されたような資料の中にタンパク質が残っていることを期待するのは、あまりにも楽観的過ぎるように思われました。最初の資料となった江戸時代の墨は、まさに腫れ物に触れるようにして分析したものです。

 ところがこの墨の中から固着剤として使われた膠のコラーゲンがほとんど分解もしていない状態で検出され、その結果をシンポジウムや学会で発表したところ予想外の反響を呼び、有難いことに各種の動物の膠や古代の資料が寄せられはじめました。この研究は、平城京の長屋王邸跡から出土した墨についての奈良文化財研究所との共同研究につながり、その墨からウシのコラーゲンを検出したことで、初めてタンパク質と考古学を結びつける手がかりを得たように思いました。

 現在、私たちの研究資料はさらに広がりを見せています。ここには書ききれない程多くの資料をご提供下さいました研究者、技術者、芸術家の皆様に深く感謝いたします。これからも資料のご提供とともに、ご指導ご助言をよろしくお願い申し上げます。このホームページをご覧になった皆様の中に、もし歴史的に何らかの意味がありそうな資料をお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非ご一報下さい!平城京の土中に眠っていた奈良時代の墨の中にもコラーゲンが残っていたくらいですから、古文書の墨にはおそらく膠のコラーゲンが残っているでしょう。資料の傷みがひどく、骨董的あるいは芸術的価値が皆無であっても古くさえあれば、研究材料として十分に学術的価値があります。資料の痛み自体が歴史を物語ることもあるのです。もちろん共同研究のお申し出も大歓迎ですので、できれば下記宛のメールでご連絡下さい。

 私たちの事業の研究成果は、このホームページをはじめ、年に数回当事業本部が主催するシンポジウムや研究論文で公表しております。時々、このホームページをチェックし、ご都合がよろしければシンポジウムにご参加下さい。こうした場で歴史研究の楽しさをお伝えできれば幸いです。



代表 中澤 隆(理学部教授)