プロジェクト概要・実施体制

プロジェクトの目的とねらい、期間内の達成目標、実施体制、環境政策への貢献について説明します。

研究の概要

大気メタンは二酸化炭素に次ぐ第二位の温室効果ガスであり、その発生量の正確な推定と削減手法の確立は急務の課題である。アジア域がメタンの大発生地であることはすでに知られている。これまでに地域・起源毎に発生量のボトムアップインベントリーが作られ、インドでは2007年に水田から70メガトン(等価CO2換算)が、さらに農業セクター全体で334メガトン(同)の温室効果ガスが放出されていると報告されている。しかし、メタン発生源のほとんどがメタン菌によるなどの生物由来であることから、発生量推定には未だ非常に不確定性が大きい。
そこで、本研究は、 GOSATなどのデータを有効に利用しつつ、南アジアに着目してメタン発生量推定を精緻化すると共に、メタン削減手法の様々なオプションに対して、観測データと大気輸送モデルを使って総合的に評価することを目的とする。南アジアのうち、特にインド・バングラデシュに焦点をあて、大気メタン濃度およびメタンフラックスの現地観測を行い、そのデータをGOSATデータと共に大気輸送モデルに投入してインバース解析を行うことにより、これまで十分でなかった南アジア地域からのメタン発生量推定の精緻化を行うことをまず目標とする。その結果に基づき、水田メタン発生削減策を複数提示し、大気科学的知見から削減策の定量的評価を行う。

研究の枠組み

研究の枠組み図

研究代表者メッセージ

研究代表者:林田佐智子

環境省では環境政策の推進に不可欠な科学的知見の集積や技術開発を目的とした競争的研究資金「環境研究総合推進費」による研究を推進しています。
本研究はその一環として、これまでの研究代表者らの研究(H24-26 環境研究総合推進費課題A1202「GOSATデータ等を用いた全球メタン発生領域の特性抽出と定量化」)をさらに深化させるとともに、南アジアで多くの観測研究の実績のある千葉大学大学院園芸学研究科、農業環境分野のエキスパート集団である農研機構農業環境変動研究センターおよび最先端のモデル開発を行なっているJAMSTEC等を加え、我々が将来目指す低炭素型社会構築に向け、単にメタン収支を推定するだけではなく、水田からのメタン排出を削減するオプションを複数提示し、大気科学的知見から削減策の定量的評価を行います。(研究代表者:林田佐智子)

達成目標

達成目標1 南アジアのメタン終始推定の
達成目標2 南アジアにおける水田メタン発生削減策の評価

環境政策への貢献

1
南アジアレベルで実施した緩和策が
大気メタン濃度に及ぼす影響を評価する初めての試み
これまで温暖化緩和技術の開発と評価は主に地表面フラックスベースで行われてきたが、メタンは大気中でOHラジカル等と反応するため、大気濃度への影響は反応物質を含めて全球レベルの大気輸送モデルによって評価される必要がある。本研究成果は、具体的な緩和技術が大気濃度へ及ぼす影響を南アジアレベルで評価する初めての試みで、緩和策推進の科学的裏付けを強力に下支えするものとなる。
2
南アジアにおける水田からの
メタン発生量削減方策への提言を目指す
1について、本研究では、南インドのタミルナドゥ州における実験に基づいて将来現地での実施が可能と判断された方法に基づいて評価するため、南アジアからのメタン放出量削減方策の評価と提言となり得る。
3
観測の空白地帯であった南アジアにおける
メタン観測の実施
南アジアにおける農業活動からのメタン放出量を低減することが、地球温暖化の抑制に対して重要であると指摘されている。しかし南アジアはこれまで大気観測の空白域であり、メタンなどに関する情報は極めて少ない。本研究で実施中のインド・バングラデシュにおけるメタン観測は我が国が世界に先駆けて新たな科学的地平を拓くデータとして注目されるだろう。
4
衛星観測と環境政策を直接つなげる
GOSATは南アジアの水田密集地帯において確かに高濃度のメタンを観測していることが解析から示されつつある。本研究によって緩和策を実施した場合の大気メタン濃度への影響が推定できる。その結果は、次世代の地球観測衛星のスペックを決定する上で重要な参考情報となる。