研究内容
【当センタ−の研究概念図】
紀伊半島における畔田翠山、南方熊楠らの自然史研究、さらに本学における数十年の生態学研究の成果の蓄積のもとに、二つの研究グループが下記の研究 I 及び II を進めています。


生物・自然環境グループ
 生物の世界における共生をはじめとする種間関係とその機構、生物の環境応答とその機構、過去・現在・未来にわたる環境変動など、生物や自然環境に関する研究を行います。
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物質・社会生活環境グループ

 環境負荷の少ない新規化学物質の開発や環境中の化学物質のモニタリング技術の開発や、環境負荷の少ない衣食住や社会システムの構築に向けた調査研究を行います。
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I: 生物・自然環境グループ
本研究グループでは、生物の世界における共生をはじめとする種間関係とその機構、生物の環境応答とその機構、過去・現在・未来にわたる環境変動など、生物や自然環境に関する研究を行います。
I-1.陸水生態系の生物多様性維持機構に関する研究

 河川や池沼などの陸水域は、人間社会にとって身近であると同時に、生物多様性の低下が最も著しい生態系です。例えば、奈良県南部の山地には貯水ダムが数多く存在し、河川生態系に大きな影響を与えています。また、大和平野には古地図にも記されているような古いため池が存在し、灌漑の役目を終えた後も里地生物の生息場として機能しています。本研究では、水生昆虫を中心とした生物群集を対象に、生息場の特性や食物網内での相互作用を通して、生物多様性がどのように維持されているのか調べています。

I-2. 珪藻の生活史や細胞壁の形態形成に関する研究
 珪藻は数十〜 数百マイクロメートルの大きさの単細胞藻類で、水圏生態系の一次生産者として主要な役割を果たしています。熱帯から極域の淡水から海水、湿った土壌、ペットの水槽の中…と大抵の水環境に生育する珪藻は非常に身近な存在です。 珪藻の大きな特徴は、細胞壁がガラスでできていることです。微細なガラス細胞壁は、種ごとに多様な形態を持っています。その形成メカニズムは、生物学的な観点からのみならず、シリカナノ材料の生産技術への応用という点からも注目されています。ガラス細胞壁の形を制御するメカニズムを明らかにするため、珪藻の培養実験を軸とした研究を行っています。そのほか、培養実験とフィールド調査を組み合わせて、珪藻の生活環や有性生殖に関する研究も行っています。これらの研究により、珪藻の生態の理解を目指します。
I-3.植物の細胞内、細胞間、および他の生物との間で見られる相互作用について
 植物は、光合成によって無機物から有機物を作って生きていくことができる光合成独立栄養生物です。植物の細胞内に存在する葉緑体とミトコンドリアは、自身を形成するために必要な遺伝子の一部だけをもっている半自律的なオルガネラで、かつては独立生活を営んでいたシアノバクテリアやα-プロテオバクテリアの細胞内共生により成立したと考えられています。植物細胞の増殖・分化の際には、これらオルガネラのゲノムの複製や転写が細胞の増殖・分化に合わせて協調的に制御される必要があります。そこで、これら2種類のオルガネラゲノムの複製や転写がどのように制御されるのかを、複製・転写に関わる酵素や、DNAの折り畳みに関わるタンパク質の観点から調べています。そのほか、病原微生物の感染部位の細胞が自殺することで感染拡大を防止する「過敏感細胞死」の際に見られる細胞間の情報伝達や、他の植物が放出する化学物質、他の動物による物理的ストレスや環境攪乱などが植物個体に及ぼす影響についても調べています。
I-4. 海洋酸性化に対する沿岸生態系の応答予測
 人間活動に伴う大気中の二酸化炭素 (CO2)の濃度上昇は地球の気温を上昇するだけでなく、CO2が海洋に溶けることに起因する化学反応の進行で海洋を徐々に酸性化しています。海洋酸性化は「もう1つのCO2問題」と呼ばれ、酸性化に対する海洋生態系の応答を予測し、海洋生態系と海洋生態系から恵みを受ける私たちが潜在的に抱えるリスクを理解することは重要な課題です。私たちは筑波大学下田臨海実験センターと協力し、式根島CO2シープ(CO2が海底から漏れ出している場所)周辺で得られた知見に基づき、CO2の濃度上昇に対する生物の増殖や相互作用の応答をモデル化し、数値シミュレーションによる将来予測に取り組んでいます。
I-5. 人類紀の環境変遷史と自然災害履歴の解明
 新しい年代測定法を用いた人類紀の環境変遷史の復元とともに、環境変化と深い関係を有する自然災害履歴の解明を進めています。前者については、科学研究費補助金の基盤研究(B)(研究代表者:高田将志)「風成堆積物から読み取る更新世末〜完新世の陸域環境急変期 ―ユーラシア大陸東西の比較」などを通して、日本列島に分布する火山灰土とユーラシア大陸西部のレス堆積物との比較から、歴史〜先史時代の環境急変期の状況について比較検討しています。後者については、奈良盆地や近畿圏における地震災害・風水害の埋もれた災害履歴を発掘し、それら災害の特徴について新たな視点を見出すべく、研究を進めています。
I-6. 人工衛星を用いた陸域環境変動のモニタリング
 人工衛星データを用いた陸域環境変動モニタリングを目的とし、植生総生産量推定アルゴリズムの開発や植生タイプの分類手法の開発、地域における衛星データの利用可能性に関する研究を行っています。
 植生総生産量推定の手法の開発に関しては、光合成過程をそのキャパシティーと気象要因などのストレスによる抑制部分に分離し、それぞれの過程に対応する推定手法の開発を行っています。クロロフィル量に感度の高い分光反射率の波長帯を検討し、そのクロロフィル指標を用いて光?光合成曲線のパラメータを推定する方法で、総生産キャパシティーの推定アルゴリズムを開発しています。光合成の抑制部分に関する研究は、地上での光合成と葉温の日中変化の観測とモデルを用いた解析を基礎として、気象衛星で観測される地表面温度の日中変化を利用する方法の研究を行ない、人工衛星からの全地球総生産量推定の精度向上を目指しています。
 地域スケールの研究では、地域観測衛星のデータを用いて、奈良県?京都府南部における環境のモニタリングのための竹林の抽出・ナラ枯れのモニタリングを行なってきました。現在は、林業で重要なパラメータである樹冠高を航空機レーザ計測データより簡便に推定する方法の開発により、スマート林業への支援を目指しています。
 また、総合地球環境学研究所のAakash project 「大気浄化、公衆衛生および持続可能な農業を目指す学際研究:北インドの藁焼きの事例」にて、野焼きの火元と野焼き跡地を人工衛星データから判別する方法の研究を行なっています。
I-7. ボルボックスを用いた多細胞化の分子機構の研究
 生物は単細胞生物から多細胞生物へと進化(多細胞化)することにより多様な種を生み出してきました。初期の多細胞化は、同じ遺伝子をもつ単細胞生物が共生していく過程と見ることができます。多細胞性の緑藻ボルボックスおよび単細胞緑藻クラミドモナスをはじめとする近縁の緑藻類は、現存している種によって多細胞化の経緯が辿れることから、多細胞化の初期の過程を知ることができる重要で稀有なモデル生物群です。ボルボックスの発生現象に必須の遺伝子を単離・解析するとともに、単細胞生物の持っていた遺伝子がどのように多細胞化に利用され、進化してきたのかを明らかにしていくことで、多細胞化の分子機構に迫ります。
I-8. 「盗まれた」葉緑体に基づく生態系の理解
  嚢舌類ウミウシは、藻類から葉緑体を取り込み、光合成に利用します(盗葉緑体現象)。このような能力をもつ動物は極めて稀であり、「盗まれた」葉緑体が生態系においてどのような役割を果たしているのかについては明らかになっていません。そこで、ウミウシに取り込まれた葉緑体がウミウシ自身の生存・成長・繁殖にどのように役立っているのか、盗葉緑体による光合成の効果が次世代に及ぶのかなどについて調べています。また、嚢舌類では、首元で自切し、心臓を含む体部を再生する種が最近発見されましたが、そのような大規模な再生現象における盗葉緑体による光合成の役割も明らかにします。さらに、嚢舌類の寄生者や餌の藻類への波及効果、物質循環における役割など、生態系全体における盗葉緑体の役割も解明します。
I-9. 睡眠・運動時や高血圧発症時の自律神経の変化とその役割に関する研究
  自由行動下のラットを用い、睡眠・覚醒・運動時の交感神経活動による循環機能調節について研究をしています。特に、自由行動ラットの交感神経活動を長期計測する独自の方法を確立しました。この方法を用い、睡眠レム期には、筋肉活動が増加しないにもかかわらず覚醒・行動時と同じような交感神経活動と循環動態の変化が生じ、上位中枢活動の活性化のみで交感神経活動を変化させていることを報告してきました。また、正常状態から高血圧発症へ移行するときに交感神経活動がどのように高血圧発症に関与するのかを検討しました。さらに、2020年からJSTのMoonshotプロジェクトに参画し、『自律神経を介した臓器間ネットワークの機序』の解明を目指し、意識下動物での副交感神経活動の計測に挑戦しています。
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II: 物質・社会生活環境グループ
本研究グループでは、環境負荷の少ない新規化学物質の開発や環境中の化学物質のモニタリング技術の開発や、環境負荷の少ない衣食住や社会システムの構築に向けた調査研究を行います。
II-1.環境共生的な食生活の構築
 公設試験研究機関および企業等との産官学連携を通して、嗜好性や機能性の高い品種の創出や栽培方法の確立、付加価値を高める調理加工法の開発等を行っています。現在は、奈良県で育成したイチゴ品種の嗜好性および機能性について、また、奈良県で栽培したマイクロシードスイカ品種の嗜好性および機能性について、奈良県農業研究開発センターと共同研究を行っています。また、食資源の有効利用に関して、国内で自給できる穀物である米を用いた食品の加工法を開発しています。現在は、グルテンフリー米粉パンの新しい製造方法や玄米を用いた食品の開発などについて研究を行っています。これらの研究を通して、環境に優しい食生活の構築を図ります。
II-2.南アジアにおける自然環境と地域社会の関係の解明
 気候、地形、水文といったローカルな自然環境の利用方法には、どのような地域差がみられるのか、それはどのような社会経済的要因に起因するのかというテーマで、インド、バングラデシュの農村で現地調査をしてきました。現場での観察や現地語を用いた住民への聞き取り、機器を用いた計測などにより、地域住民の自然環境の捉え方を明らかにします。南アジア世界の特徴は、人口の約半数が農村部で暮らしており、伝統的な自然利用技術が多数残されていること、カーストに代表されるように、同じ地域でも社会集団や経済階層によって異なる技術や知恵がみられることにあります。日本人の常識とはまったくかけ離れた自然の捉え方、利用方法を明らかにすることで、我々が抱く自然観を相対化し、自然との付き合い方を見直すことを目指します。

II-3.生活空間における吉野材の魅力と価値に関する研究
 奈良県吉野地方は、古くから林業を産業としており、長伐期、密植、多間伐により、良質な木材を生産してきました。吉野材は節のない、まっすぐな、年輪の込んだ、美しい艶(光沢)をもつ、強度性能に優れた高級優良品として高く評価されてきましたが、現在、消費者が吉野材をどのように認識し、評価しているか不明な点が多くあります。生活空間に吉野材を用いた時の印象評価、視覚や触覚などによる感覚評価や生理反応について、また、消費者の木材に対する嗜好の把握などを行っています。さらに、長期間良い状態で使い続けられるよう維持管理のあり方を検討しています。そして、吉野材の魅力や価値を改めて認識し、吉野材を用いた木製品の商品開発をはじめとする吉野材市場の活性化へつながる提案を考察しています。
II-4.環境中有害重金属の検出法の開発
 自然界や生体内には、微量の金属イオンおよび無機イオン、さらには有機分子が数多く存在しています。環境測定の観点から、そのような微量金属や微量分子を特異的に、感度良くかつ簡便に検出・定量する技術が求められています。特に、蛍光シグナルの変化を用いて標的イオンや標的分子を検出する方法は、高い感度および標的分子特異性などの点から近年特に注目されています。私たちは、有機合成化学の手法を用い、含窒素複素族化合物であるキノリンという化合物の特性を活用した蛍光センサーについて研究を行っています。その中で、蛍光センサー分子の一部の構造を少し変化させるだけで検出標的となる金属イオンが亜鉛イオンからカドミウムイオンへ劇的に変化する例もいくつか報告しています。

II-5.いにしえ人は、いかにして木の実を食したのか
 平成13年以降、紀伊山地を中心にトチノミの可食化処理方法の現地調査を実施してきた。堅果類の可食化処理方法は、地域によっても差異がみられるが、これは環境的な要因ではなく、食品の形態と処理方法の習得や伝承等の差異によって形成されたものと推察される。さらに、このような堅果類の食習慣が、どこまで遡りうるのかも重要である。縄文時代には主要な食糧資源であった堅果類ではあるが、中世には史料も考古学的資料も乏しいのが現状である。しかし、近世の農業書には救荒食として堅果類について記されている。この間隙をつなぐのが、中世に活動した修験者ではないかと筆者は考える。北上山地、飛騨地方、紀伊山地、四国山地、いずれも聖山の地に、これらの食文化が残されているのである。
II-6.環境適合型界面活性剤の開発
 界面活性剤は、気/液や液/液界面に吸着し、水中で会合体を形成します。これらの特性を利用して、界面活性剤はトイレタリーや化粧品など幅広い分野で使用されています。界面活性剤が環境中に放出された場合に、分解されにくいといった問題が起こります。このような環境問題を意識しながら、環境負荷の低減や高性能・高機能性の発現を目指した新規環境適合型界面活性剤の開発を行っています。新規界面活性剤の分子設計・合成から物性評価、分子集合体のナノ構造解析など、幅広い研究手段で進めています。会合体のナノ構造は、大型放射光施設SPring-8のX線小角散乱(SAXS)、J-PARCやJAEAの中性子小角散乱(SANS)の装置を用いて解析を行っています。また、界面活性剤がつくる泡沫の構造や安定性を調べ、この泡沫を用いて、重金属イオンを捕捉・回収する泡沫分離の研究も進めています。
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