センター長の挨拶
共生科学研究センター長 保 智己
  初代大石正センター長、古川昭雄センター長、和田恵次センター長、高田将志センター長に続き、5代目のセンター長を仰せつかりました。共生科学研究センターは2001年に設置された奈良女子大学開学以来、初めての省令研究施設です。ちょうど私が本学に赴任してきたのは初代センター長達が当時の文部省への提出書類の作成や交渉に奔走している頃でした。センターの目的は、紀伊半島を日本の縮図と考え、この地域を研究対象とし、自然環境と人間活動との共生循環機構を解明し、自然と人間との共生循環型社会を構築するということでした。共生科学研究センターはその目的を達成するためには、理学系、生活環境学系、文学系といった幅広い学問分野を対象にする必要がありましたが、申請時に文部省(現文科省)からの指導により設立時は理系を主とすることになってしまいました。そのため、一部の方々からは共生科学研究センターは理系のセンターであるかのような誤解を招いてしまったようです。しかし、設立当初より文学系のメンバーも加わっており、10年間の時限が切れてからはさらに紀伊半島の風習・文化を研究するメンバーも加わり、本来のセンターが目指した本学の3学部が一体となった学際的な研究施設の姿に向かっています。本センターが学際的な研究施設であるということはその名称にも表れています。本センターの研究対象であり、名称にもなっている「共生科学」は本センターの設立メンバーが提唱した学問分野です。共生科学という用語は他の大学でも聞かれたことはあるかと思います。ただ、本センターの英名が新規の学問であることを表しています。多くの方は「共生」と聞くと生物の分野で用いられるsymbiosisを浮かべるかもしれません。あるいは「共生科学」というとsustainable scienceという用語が用いられたりしています。本学はそのどちらでもなく、というより両方の意味合いを含め、もっと広い意味で共生という日本語にKyouseiという英名を与え、本センターの名称を“KYOUSEI Science Center for Life and Nature”としました。今後は本学から始まった「共生科学」という分野を更に広げていくために、学内の他のセンターとも協力していき、更なる発展を目指したいと考えています。

センターの理念と目指すところ
  本センターは、人間社会と自然環境の共生のための科学-共生科学-を通して、自然の保全と再生を目指すことを目的としています。現在、地球上では人間活動の急激な増大に伴う大量消費、大量生産、大量廃棄等が、温暖化、酸性雨、オゾンホール、産業廃棄物、生物種の絶滅、生態系の破壊などの重大な歪みをもたらし、大きな社会問題となっています。地球環境及び生態系は、種々の要素が相互に関連しあって全体の系を構成しながら動いている複雑系であり、分析的な手法と総合的な手法の両面を取り入れた、物質から地球規模に至る多次元的研究が要求されます。我々は、物質から生命・生態系、さらに地域から全球までの科学的アプローチを通して、環境問題への貢献を目指します。
研究のフィールドは、奈良地域及び紀伊半島を基点に、東アジア地域から全球的拡がりを視野に入れ、自然環境と共存できる人間活動のあり方について、広く提言を行うことを目標とします。

なぜ奈良地域,紀伊半島なのか? 〜紀伊半島と本学における自然誌研究〜
紀伊半島の自然と歴史
  紀伊半島は世界でも有数の多雨地域を含み、亜寒帯から亜熱帯までの自然が交錯する豊かな森林、河川、沿岸生態系を擁しています。このような紀伊半島において、早くから人間と自然の交流が行われてきました。古くは吉野野川沿いに点在する遺跡から縄文、弥生時代にまで遡ることかできます。また、神武天皇にまつわる故事来歴が日本書紀に記されていることをはじめ、この地域は日本の古代の中心的な位置にあり、歴史、考古学的研究が精力的に行われています。
  即ち、紀伊半島は、豊かな自然生態系が、歴史的風土の中で古くから維持されてきたところであり、人間社会と自然環境との共生のあり方を探る格好のモデル地域となるものと言えます。
右:LANDSAT/TMデータより作成した1995年夏の画像。
(LANDSAT/TMデータは、米国政府所有、宇宙開発事業団提供。)
C1998 奈良女子大学理学部情報科学陸域グループ

自然誌研究の歴史 
  自然環境と生物に関する研究としては、幕末の紀州藩士、畔田翠山( 源伴存)の名著、「和州吉野郡中物産志」がまず挙げられます。紀伊半島の動植物の分布 、生態について詳細に記録されています。百数十年前にすでにこのような詳細な生態学的調査が行われていたことは驚くべきことです。畔田翠山の業績は、他の著書「和州吉野郡群山記」、「金嶽草木志」を合わせ、奈良産業大学教授御勢久右衛門により、「和州吉野郡群山記、その踏査路と生物相」として再度検討されまとめられました。また明治から昭和にかけて、南方熊楠がこの地にあって粘菌の分類から民族学に至る近代自然誌研究の世界を築きました。
  これらの先達の後を受けて、今もこの地域では、長い歴史をもつ種々の研究会が活躍しています。

奈良女子大学における自然誌研究
  本学の前身奈良高等女子師範の時代には、日本でギボシムシ類の研究を最初に行った桑野久任氏が教鞭をとられ、哺乳類から無脊椎動物に至る多くの動物標本を本学に残されました。奈良女子大学になってからは、東吉野地域における河川生物に関する研究が、昭和23年から、当時の津田松苗教授らによって始められ、昭和44年には、観測小屋(吉野川生物研究室)が高見川と吉野川の合流点近く、吉野町新子地点に設置されました。後に、上流に位置を変えて東吉野自然環境研究施設となり、研究、教育に活用され続けて、水生昆虫の研究においては、日本の研究の一つの中心をなしてきました。また、都市部では、津田教授が始めた汚水生物学が大きな役割を果たしてきました。つづいて、淡水魚の生態学的研究が、名越教授らにより行われ、特に紀伊半島の淡水魚の保全に大きな貢献をしてきました。さらに近年は、水域の研究対象が河川から海にまで拡がり、海洋生物の生態学的研究、分類学的研究が進められています。
  一方、植物学関係の研究は、小清水卓二教授により昭和17年に出版された「萬葉植物? 写真と解説」を始めとして、精力的に大台ヶ原、大峰などの植物相の研究が行われ、現在では、衛星データを用いた紀伊半島の植生に関する研究などに継承されています。また、地史・自然誌的研究分野では、紀伊半島の水環境・地形環境や自然災害などに関する研究などへの取り組みも進められています。
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小中高生向け 東吉野村野外体験実習
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奈良女子大学 共生科学研究センター
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