天の川銀河 Milky Way

天の川銀河とは?

私たちが住む太陽系が属している銀河のことを銀河系(the Galaxy, Milky Way)と呼びます。天の川はこの銀河系を地球から見た姿で、中心領域は天の川が最も濃くなっているいて座の方向にあります。
天の川銀河は、図のように様々な波長で明るく輝いていることが分かります。また、それぞれの波長で見え方が異なっているのも分かります。


様々な波長で見た天の川銀河 © NASA
上から順に
電波(408 MHz)、水素原子、電波(2.5 GHz)、水素分子、
赤外線、中間赤外、近赤外、可視光、X線
領域で見た天の川銀河

星間物質によって背後の光が吸収されるため、可視光は中心領域の観測には適していません。よって、天の川中心領域を調べるには、赤外線や電波、X線、ガンマ線が主な観測手段となります。

銀河中心は様々な天体と現象が混在する特異な領域です。
強力な電波源や巨大な星団、ダイナミックに運動する星間物質などがあらゆる波長で観測されています。そして、その中心にはいて座A*という、太陽の400万倍もの質量を持つ超巨大質量ブラックホールが存在しています。現在は低い活動性を示していますが、300年程前は活発に活動していたと考えられています。
銀河中心からのX線は、いて座A*からのX線を反射して放出される蛍光X線や高温プラズマに付随する6.7 keV輝線、連星系からのX線、超新星残骸からの非熱的放射などが観測されています。

研究テーマ

天の川銀河に付随する拡散X線放射

天の川銀河には、個々の天体に分離することができない拡がったX線放射(銀河面X線放射、Galactic Diffuse X-ray Emission: 以下GDXEと略す)が存在していて、X線スペクトルの観測から、それは数千万度の温度の希薄なプラズマからの放射であることがわかっています。それはいったい何でしょうか。天の川銀河内に真に広がったプラズマとして存在していて、そこからの放射であるとすると、そのプラズマの全熱エネルギーは超新星1万−10万個分にも相当する巨大なものとなります。数千万度の温度のガスは高温すぎて銀河の重力で閉じ込めておくことはできません。私たちのまだ理解していない方法で閉じ込めているのでしょうか。このプラズマが超新星爆発で形成されてきたとすると、数年に1回の割合で超新星爆発がおこっていなくてはならない計算になり、これは、銀河の中でおこる超新星残骸の発生率を大きく超えてしまいます。どのような方法でプラズマガスをつくったのでしょうか。拡がったプラズマではなく、観測装置の検出限界以下の暗い点源が集まっているため、拡がった放射のように見えるという説も考えられます。その場合、GDXEと類似のスペクトルを持つ天体がたくさんなければいけませんが、そのような候補天体は見つかっていません。私たちの知らない種族の天体がたくさん存在しているのでしょうか。
拡散プラズマ説、点源説のいずれの場合でも、私たちの天の川銀河の理解を超えた現象であることに間違いありません。発見以来、30年以上が経過した現在においても未解決となっているGDXEの起源を探っています。

銀河系中心の活動を探る

銀河中心の活動には、いて座A*の活動が深く関わっていると考えられています。
いて座A*に周囲のガスが落ちこむ際、ガスは高温になりX線を放射します。この放射されたX線が銀河系中心領域にある低温なガス雲に照射されると、特別なX線(6.4 keV輝線)が放出されます。この6.4 keV輝線の強度を測定すると、X線の照射源であるいて座A*のX線の強度を知ることができます。
また、いて座A*とガス雲の距離が大きくなると、それだけいて座A*からのX線が届くまでに時間がかかることになります。よって、距離の異なるガス雲からの6.4 keV輝線を測定すれば、過去の異なった時期のいて座A*の活動性を知ることができます。
私たちは、「すざく」衛星による観測データを用いて、これまでのデータも参考に、この銀河系中心領域の活動を調べています。


「すざく」衛星によるいて座A*付近の6.4 keVイメージ
★:いて座A*の位置

「すざく」衛星による2005年9月23日〜2007年9月5日までの観測データの時間経過にともなう6.4 keV輝線の強度変動を比較したイメージです。
時間の経過とともに、強度が増加している領域()、減少している領域()、さほど変わらない領域()があることがわかります。