留学体験記<台湾>

国立清華大学

博士後期課程3年生の2019年9月から2020年6月まで、台湾の国立清華大学へ留学しました。学部生の頃から中国文学の研究を行っており、中華圏への研究留学はずっと目標にしていたものでした。

留学するまでは日本で研究活動を続けていて、研究対象である中国現代文学に関する資料が多数所蔵される中国や台湾の研究機関での研究活動は、年に数回に亘る短期間の訪問のみでした。留学した博士後期課程3年生は、博士論文作成に向けた集大成の期間となるため、専門的資料が常に閲覧可能な環境が必要であり、周囲に専門家が多数在籍した環境で学術的交流を深めることが望ましいと考えました。そのため、研究環境の向上、そして研究内容の深化を図ることを目的として、台湾に1年間留学して研究を遂行することを選択しました。

私が研究対象としている作家・沈従文は、国民党系の文学者との関わりが非常に強い作家です。また日中戦争時期に発表した作品も多数の国民党系雑誌に掲載されています。そのため、沈従文周辺の知識人に関する資料や、沈従文が発表した作品の初出資料を調査するには、台湾の研究機関での調査が非常に有用となりました。
台湾には、中央研究院や国家図書館、中国国民党党史館、国立台湾大学図書館など、専門的資料や貴重資料を豊富に所蔵する研究機関が多く存在します。これらは外部の研究者や大学生も常時利用可能でした。また、こうした研究機関には、台湾で発行された資料だけでなく、中国大陸で発行された資料も網羅的に所蔵していて、中国のデータベースにもアクセスが可能でした。さらに、中国大陸では閲覧不可能な論文等も入手できる環境がありました。

平日は清華大学で中国語上級の講義や、中国現代文学・台湾文学に関する講義を受け、週末には上記のような研究機関を訪れて、様々な資料を調査するという生活を送りました。同じ研究室の台湾人の友人に調査を手伝ってもらったり、参加した学会で知り合った台湾をはじめとした各国の大学院生と議論を交わしたりするなど、同年代の外国人研究者と交流ができたのも大変貴重な経験でした。こうした環境で研究活動を行う意義は極めて大きいものでした。

しかし、このように充実した留学生活が最後まで無事に続くことはありませんでした。2020年1月以降の新型コロナウイルス感染拡大の影響により、台湾では防疫対策としてあらゆる研究会や国際学会等が中止されました。清華大学において研究指導を受けながら、留学の集大成として研究発表を行う準備をしていたもののそれも叶わず、ついには途中帰国を余儀なくされるに至りました。台湾での成果発表の機会を逸したことは大変遺憾でしたが、留学中に入手した資料や指導を受けた内容をもとに、現在、日本において博士論文完成に向けて研究活動を継続しています。

最後に、新型コロナウイルス感染拡大の混乱の中、無事留学を終えられるようご尽力いただいた国際課の方々、日本帰国後も留学期間満了までオンラインで指導を続けてくださった清華大学の先生方、全ての関係者の方々に心より御礼申し上げます。

東海大学

台湾といえば台北!のようなイメージがあると思いますが、私が交換留学先に選んだ東海大学は、台中市というところに位置しています。台北でもなく、台南でもなく、台中。本屋にも、台北や高雄のガイドブックはどっさりあるのに、台中と大きく記したものはまったく見かけず、どんな場所なのか全然想像がつかないまま台湾へと旅立ちました。

空港へ大学の国際交流ボランティアの方々が迎えに来てくれ、桃園国際空港からバスで2時間揺られる途中、冷房が寒過ぎてものすごく不安だったことを今でも覚えています。時刻は夜で薄暗い中、バス内のテレビ、看板、道路標識と、目に映るものが何から何まで中国語で、ぼんやりと、あぁ自分は外国に来たんだな、と思い始めました。

不安がいっぱいでスタートした留学生活は、最初の三ヶ月間は本当にしんどく、帰りたくなることもしばしばでした。台湾は外食文化なので、外で食べるにもなかなか自分の胃に合うものが見つからなかったり、注文で間違うのが怖くてなかなか店に入れなかったり。寮の布団が薄すぎて眠れなかったり、ウォーターサーバーの水が安全かどうかわからずびくびくしながら飲んでいたり。先生もクラスメイトもルームメイトも親切な人ばかりでしたが、言葉が通じないのが怖くて、なかなか人と話そうと思えませんでした。

ただ、三か月が過ぎ、耳が中国語に慣れ、生活上の勝手もわかってくると、台湾は本当にいいところでした。今となっては、日本に帰ってくるのが残念に思えるくらい、すっかりあちらの生活に馴染んだと思います。華語センターの授業は少人数制なので、わからないことを聞いたり、自分のペースで喋る練習をしたりするにはとてもよい環境でした。大学自体も、奈良女が10個ほどは入るのではと思うくらい大きく、自然が多い場所なので、大学内の違うキャンパスや牧場へ散策に行くのも楽しかったです。また、台中市は8km以内ならば市バスが無料という嬉しい制度があるので、少し遠出して台湾独特の街並みを見たり、神社を見たり、夜市を回ったりすることもできます。台中は、見た目は都会のようなビル街ですが、少し脇に逸れると日本ではお目にかかれない店が見られたり、大衆文化の溢れる街並みがあったりと、完全に都会化されていない分、台湾の文化を感じるにはとてもよい場所です。

「台湾で最も美しいのは、風景でもなく、美食でもない、人のやさしさだ」という言葉があります。日本人の印象の中にあるとおり、台湾の方はとても親切です。ですが、それは日本人相手に限ったことではありません。バスの中で道がわからず困っている人がいたら、まわりの乗客が次々に口を出して手助けしてくれます。学内外の飲食店には気さくな店主が多くて、注文してお金を払って商品を受け取る間にも、さまざまな話をしてくれます。台湾の人に道を聞かれて教えてあげると、日本人だということに驚かれ、身内に日本人と結婚した人がいるだとか、どこに遊びに行ったことがあると嬉しそうに教えてくれる人たちがいます。台湾には、東南アジアからやってきた人やアメリカ・ヨーロッパ圏から来る人も少なくなく、まさに色々な言語と文化が混じり合います。そんな場所だからこそ、多様性を許容してお互いを尊重しながら生活していこうと、自然と人に興味を持ち親切になれるのではないかと、私は思います。そんな台湾の風土と気候に感化され、私も台湾が大好きになりました。

留学は、決して何か特定のことを学ぶためだけの制度ではないと思います。行ったからはっきりした何かが得られるとかそういうわけではなく、経験そのものが、今後の人生を支えてくれるかけがえのない宝になると思います。損得とか、人にどう思われるとか関係なく、興味があったら是非検討してみてください。