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高温超伝導体の新奇な電子状態の解明に向けて



[ リリース: 2022.2 ]
奈良女子大学理学部数物科学科 物理学領域 准教授 土射津 昌久

超伝導とは、電気抵抗がゼロになる現象です。抵抗がないので、低い電圧でも大電流を流すことができます。この性質を活かして、強力な電磁石を作ることができ、超伝導リニアモーターカーや医療機器のMRI(磁気共鳴画像)等に利用されています。また、抵抗がないため熱が発生せず、電力損失のないケーブルとしての活用も期待されています。

基礎研究の立場からは、超伝導発現のメカニズムを解明することが重要な課題です。超伝導を理解するためには、物質を構成する電子の振る舞いを理解する必要があります。ミクロな電子の振る舞いは、「量子力学」によって記述されます。この量子力学にもとづけば、ミクロな電子は、粒子と波の2つの性質を併せ持つことが示されます。

電子1個の振る舞いは量子力学によって理解されますが、超伝導を理解するためには、物質中に存在する膨大な数(およそ10の23乗個)の電子の振る舞いを理解する必要があり、量子力学だけでは不十分です。銅やアルミニウムは、なぜ電気を流すのでしょうか?シャープペンシルの芯であるグラファイトも電気を流しますが、一方で、同じ炭素原子の結晶であるダイヤモンドは全く電気を流しません。なぜでしょうか?これらの違いを理解するためには、電子の集団としての性質を理解する必要があり、そのための学問が「量子統計力学」です。量子統計力学にもとづけば、金属・半導体・絶縁体を、普遍的な基礎原理から理解できるようになります。

超伝導もこの量子統計力学にもとづいて理解する試みが続けられています。これまでの研究から、電子の間に「有効的な引力」が働くことで、高温超伝導が実現することが分かっています。高い温度で超伝導が実現すること知られている銅酸化物超伝導体の結晶構造を示したのが下の図です。銅原子と酸素原子からなる単純な2次元的構造が、高い温度で超伝導を発現させる舞台となっています。





この構造にキャリア(ホール)を注入すると超伝導が実現します。ホールの濃度と温度の平面で、どのような状態が実現するのかを示した相図が下の図です。最近、超伝導状態が実現する温度よりも高温で、「電荷密度波状態」や「電子ネマティック状態」と呼ばれる新奇な電子状態が実現することが実験的に確認されました。超伝導状態に隣接して実現することから、超伝導発現機構を解明するためのカギとして、大きな注目を集めています。





理論的な解析も精力的に行われましたが、これら「電荷密度波状態」や「電子ネマティック状態」は、従来の標準理論では説明することができないことが判明し、そのメカニズムを解明するためには、それまでの常識を超えて、電子間相互作用をきちんと考慮した新しい理論体系を構築することが必要であることが明らかとなりました。このような状況の中で私たちは、「汎関数くりこみ群法」と呼ばれる新しい理論枠組みを構築し、銅酸化物超伝導体に適用することで、電荷密度波状態と電子ネマティック状態の解明に成功しました。従来の理論では無視されてきた「揺らぎの間の結合の効果」が重要な役割を果たしていることを突き止めました。





電子間相互作用が重要な役割を果たしている物質は、「強相関電子系」と呼ばれ、多くの研究者を惹きつけ、固体物性論における中心テーマです。今後、この理論手法は、強相関電子系を解析するための標準理論となることが期待されます。



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論文
土射津昌久・田財里奈・山川洋一・紺谷 浩
「汎関数くりこみ群法による強相関電子系の研究 −2次元電子系におけるネマティック秩序−」
固体物理 vol.55, No 5, pp. 195-203 (2020)

R. Tazai, Y. Yamakawa, M. Tsuchiizu, and H. Kontani
d- and p-wave Quantum Liquid Crystal Orders in Cuprate Superconductors, κ-(BEDT-TTF)2X, and Coupled Chain Hubbard Models: Functional-renormalization-group Analysis
J. Phys. Soc. Jpn 90, 111012 (2021) [SPECIAL TOPICS: Charge Orders and Fluctuations in Cuprate High-temperature Superconductors]